クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む～運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です～

「そうか…」とほとんど消え入りそうな声で呟くと、芽衣子の父は懺悔するようにうなだれた。

「私にそんな資格はないのは解かっていたが…芽衣子の成長を確認するごとに、私の心を痛ませた。娘への罪悪感と覚えるとともに、自分の弱い心をも確認して苦しかった。娘も次第に心を閉ざしていき、幼い頃に見られた母親譲りの明るさや快活さを失っていった。そのことが余計に私を苦しませた。『人形』とはよく言ったものだな…芽衣子のその姿は、まるで人形のように心を閉ざしてしまった妻と瓜二つに見えた…」
「…それで、急に芽衣子さんを解き放ったんですね。もう、自由に生きていいのだと」
「そうだ…。そこで芽衣子がどんな道に進もうと、どんな人間と共に歩もうと、私は認めるはずだった。なぜならそれは、娘が初めて見せた自分の意思だったからな。私は信頼のおける者に探らせる形で、娘を密かに見守った。だが、一年経ってもあの子は自由どころかアルバイトの安月給で生計を立てて不自由に暮らしているという。何不自由なく育ててきた娘に何という酷な現実を強いてしまったのか、と私は後悔した。そこで娘が幸せになるには結婚して安定した生活を送るのが一番と思い、相応しいと思った相手を選んだ」

俺は思わずかぶりを振って、憤りに口調が尖らないよう意識しながら言った。

「失礼を承知で言いますが、あの北村という男はまったくの見込み違いです。あの男は芽衣子さんを傷つけこそすれ、幸せには絶対しない」

そして、北村が芽衣子にした仕打ちを伝えた。
もちろん、手首の鬱血や芽衣子に言った暴言まであからさまに言うのは控えたが、あの下衆男に抱いている憤りを滲ませることなく伝えられたかどうかは、自信がなかった。