クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
「このことが世間に知れ渡ったら、お父上の立場はどうなるんだろうな…」
「な…っ…」
「それでもおまえはあの男を選ぶのか? 選んだら今度は、『そんな醜聞を持った政治家の娘が、あの有名企業の御曹司に嫁いだ』などとマスコミの格好の餌食になると言うのに」
「…!!」

この男は、まさに悪魔だった。

「あなたほど性根の汚い下卑た男は、見たことがないわ…」

ひたり、と北村の顔が凍り付く。

「ずいぶんな口を利く大和撫子様だ」
「事実なのだから何度だって言うわ。あなたなんて、親の威を借りているだけの卑怯者の無能じゃないの。父を利用しようが何しようが、いずれは身を破滅させるのが落ちよ」
「なんだと…!?」

手首を握る力が強くなる。
痛みと恐怖が胸に広がるものの、それよりも激しい怒りが私の口から言葉を吐き出させる。

「離して! これ以上その汚い手で私に触れないで!」
「黙れ、このあばずれが! おまえは母親と同じだ。婚約者がいながら他の男に走るなんて、下品な女の血が流れている証拠だ」
「な…!」
「おまえの父親もがっかりしているだろうな。金をかけて育てた娘が、結局は他の男に逃げた妻と同じように自分を裏切ったんだからな! はは、愉快だ! 大物政治家も、女の扱いについては無能だったというわけか」
「…よくも…! 父への侮辱は絶対許さない!!」

乾いた音が響いた。
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