クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
手の平が焼けるように痛みだし、私は自分が北村の頬を張ったことに気付いて唖然とした―――が、

「―――っ…!」

すかさず北村から頬を打たれ返され、私はバランスを崩して道路に倒れた。

拍子に、かんざしが落ちる。

あまりの仕打ちに茫然とする視界に、お母様がくださった着物の裾が泥に汚れた様が入る。

雅己さんが見立ててくれた美しい銀細工のかんざしが、街灯に照らされ寂しく輝いていた。

やけどを負ったように頬がジンジンと痛み出し、かんざしが、ぼやけていく。

「立て」

北村が乱暴に私の腕を掴み、引き上げた。

「来い。乗るんだ」

そして、車に無理矢理引っ張っていく。

「…いや!」

私は大声を上げて、その手から払い逃れようとした。

「触らないで! 絶対に嫌…!」
「大声を出すな! さっさと乗るんだ!」
「いやぁっ!」

強引な北村。足掻く私。

髪が乱れ、掴み合いになって着物が皺になるのも構わず、私は必死に抵抗する。
業を煮やした北村の片手が高らかに上がった。

また打たれる―――そう思って目を閉じた―――。
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