クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
が、覚悟した痛みはやってこなかった。

恐る恐る薄目で見ると、信じられない光景に目を見開いた。

雅己さんが、北村の手を掴んで、背中にねじり抑えていたのだ。

「なん…おまえ…! 痛ーっ!」

北村は情けなく悲鳴を上げ、暴れる。
雅己さんは冷ややかに見下ろして微動だにしない。

「離せって言ってるだろ!」
「…お望み通り、離してやるよ。おまけ付きでな」

肉を打つ、鈍い音が響いた。
雅己さんに殴られ、望み通り解放されたものの、北村は道路に倒れ込んだ。
すかさず雅己さんを睨み上げるが、まるで初めて殴られた子供のように、その目には驚愕と悔しさからの涙が溜まっているように見えた。

「俺の大切な女性に乱暴をはたらいた罰だ。感謝しろ。一発じゃ足りないところを免じてやったんだからな。おまえの唯一の武器と言ったら、その腑抜けたボンボン面しかないだろ」
「なんだと…! 貴様、よくも…!」
「やめろ、北村!」

そこへ、重く響く声が聞こえた。
久しぶりに聞くものの、その貫禄に溢れた声は聞き馴染んだものだった。

「お父様…!」

気付けば北村の車の後ろに雅己さんの車があった。

お父様はそこから降りるとゆっくりと近付いて、北村を見下ろした。
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