クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
彼は手を離すと柔和な笑顔で「なんでもない」と返した。

男達もいそいそとその場を去ろうとしたが、店員に呼び止められて注意を受け始めた。

「大丈夫?」

彼が茫然としている私を見下ろした。
冷ややかだった目は、今は温もりを帯びて優しく細められている。

「はい、ありがとう…ございます」

助けてくれたのは、女性たちに囲まれていたあの男の人だった。

わざわざ助けに来てくれるなんて、と私は恐縮し変な胸の高鳴りを感じる。

改めて彼を前にすると、身が引き寄せられるような感覚を覚えた。

それは素晴らしい芸術作品を目の前にした時の感動と似ていた。

眉目秀麗という表現がふさわしい端正な顔立ち。
目に少しかかるくらいの長めの黒髪を無造作に下ろしているのも、憂いをまとった色気をにじませている。
それでいて低く、どこか甘い声―――すべてが完璧な美しさを併せ持っていた。

彼は少し首をかしげて言った。
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