クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
脚を運んだのは週末の午後、客入りが一番多い時間だ。

けれども、俺の予想に反して店内は空席が目立っていた。

店内の清掃も、席まで案内してくれた店員の対応も悪くない。
いった何が原因なのか…俺は硬い表情のまま店の一角の席に腰掛けた。

今日の俺の格好は着物一着のみ。

身バレするとまずいから、ヘアスタイルは仕事の時のスタイリングではなくオフの時の無造作に下ろしたものにして、安全策のため伊達眼鏡もかけた。

ちなみにこれは和装コードシステムを受けるためのものであって、俺は休日も和装でいるわけではない。

どうやら巷では俺のことを和の貴公子、御曹司、和製貴族などと勝手にあだ名を付けて面白半分にもてはやしているようだが、俺が仕事中に和装でいるのは「日本文化の保全と発展に貢献する」という企業方針を忘れずにいるためであり、俺自身は梨園の人間やどこぞの流派といった、根っから日本格式と品が沁みついたようなたいそうな人間ではなかった。

いわば和装はスーツ代わり。
戦闘服みたいなものなのだ。

戦闘から解き放たれた俺は、どこにでもいる二十代の男に戻る。
しかも女遊び好きの、いわゆるチャラ男とカテゴライズされる類の男に。
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