クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
店装も店員対応もメニューも申し分ない。
だが、それをゆっくりと堪能する環境が損なわれてきているのだ。

難しい問題だった。
外国人観光客は売上を支える大事な客層だ。
大きな声で話すのは民族性というもので、それが母国では美徳としてみなされているので、悪いことではないのだ。
要はこの店にいる時くらいは、日本の情緒や風情に関心を持って、それを大切にして過ごしてもらいたいのだ。

問題は、そのことをどうやって理解してもらうか、だ。
貼紙やメニューに注意書きを添えるだけでは効果は薄く、また格好が悪い。
やはり、それをきちんと説明し理解してもらえる語学能力と教養を兼ね備えた従業員が必要と言えた。
とは言っても、そんな高いスキルを持った人物など早々いるはずがないのだが…。

と店内を見回したところで、ふと一人の女性従業員に目が留まった。

歳は二十代前半といったところだろうが、柔らかく結われた黒髪が綺麗で、大人びた雰囲気をしている。
特に歩き方が綺麗で、ホールスタッフのユニフォームである着物も着慣れた感じでまったく着崩れしていない。

彼女は例の外国人客に話しかけて、記念撮影を申し出た。
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