クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
立ち尽くし、そして見惚れる。
私の行動など予測済みだと言わんばかりに微笑を浮かべている今夜の彼は、和装ではないスーツ姿でもまた違った、毅然とした魅力があった。
眼鏡の奥から、あの色気のある眼差しを私に向けて、彼は悠然と続けた。

「帰ってしまうのかな。俺は君に会いに来たんだけれど」
「……」
「店長から聞いたよね。秘書の件、応じてくれるかな?」

私は彼の眼差しを受けることができず、目を伏せながら答えた。

「…せっかくですが、応じられません…」
「どうして?」
「私が秘書なんて…ふさわしくありません」
「何ひとつ問題はないよ。知性、所作、何から何まで、君は完璧な女性だ。なにより君のその教養は抜きん出ている。日本文化に対する造詣から、それを外国人に理解させる英語力まで」
「え…」

確かに父の教育の一環で、幼い頃から英語を身に付けさせられていたが…あの短い一夜の中で、彼に英語で話しかけたことはなかった。

どうして彼は、私が英語を話せることを知っているのだろう…? 仕事ぶりを店長から聞いていたのだろうか。
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