クールな御曹司は傷心令嬢を溺愛で包む~運命に抗いたかったけど、この最愛婚は想定外です~
どこか楽しげに言う彼に口ごもってしまう私だったが、彼は問い質す気はないようで、

「まぁいい、それはこれから知る楽しみだから。それに俺はもう十分、君のことを知ってしまったし…ベッドの上での本当の君を…」
「…それは、言わないでください…!」

わざと色気のある低い声で言われて、私は堪らずかぶりを振った。
けれども彼は、そうはいかないとばかりに口調を強めて続けた。

「だめだよ、何度でも言うよ。だって俺は君を知りすぎて、そのせいで君に囚われてしまったんだから」

彼が近付いてきて、囚われるように私はその傘の中に入り込む。
微かな雨音が響く中で、彼の低い声もまた、ひっそりと私の耳を打った。

「あの日は傘をありがとう。俺はね、あの時に君を好きになってしまったんだよ。―――あの、雨の中で俺に傘を差し出して笑ってくれた君を」

眼鏡の奥の瞳には、熱い想いを宿した光が―――あの夜ベッドの上で私を射抜いた魅惑的な輝きがあった。
< 76 / 232 >

この作品をシェア

pagetop