追体験アプリ
☆☆☆

自分の彼氏があの黒坂くんだなんて信じられない。


保健室で『旭って呼んで』と言われたことを思い出すと、自然と頬が緩んでしまい、晴れているので痛みがした。


「有紗、嬉しそうな顔してどうしたの?」


自分の机でさっきからニヤニヤしっぱなしの私に多美子が不思議そうな顔を向けてきた。


「ううん、別になんでもないよ」


そう返事をしながらもニヤニヤが止まらない。


「そういえば殴られた傷大丈夫?」


「傷? あぁ、そういえばそういうこともあったっけ」


つい数時間前のことなのにスッカリ忘れてしまいそうになる。


だって、この私が黒坂くんの彼女だよ?


他に起こったことなんて全部頭の中から抜け落ちてしまうくらい衝撃的なことが起こったんだ。


「有紗、ジュース買ってきたけど飲む?」


その時教室へ戻ってきた黒坂くんが陽気な声で私にパックのオレンジジュースを差し出してきた。


「あ、じゃあお金……」


「そんなのいらないよ。俺が有紗に買ってあげたかったんだから」


旭は教室中に聞こえるような声量でそんなことを言う。


「ちょっと、そんなこと言ってるとバレちゃうよ?」


小声になってそう伝えたが、旭はキョトンとした表情で私を見つめた。


「バレたら、なにか悪いの?」


「そうじゃないけど、でも……」


旭くらいの人気者の彼女が私だなんて、みんなどう思うかなと考えてしまう。
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