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☆☆☆

A組の教室に入る前からその悲鳴は聞こえてきていた。


「誰かとめて! いやぁ!!」


それは紛れもなく夕里子の悲鳴だ。


私と多美子は顔を見合わせて教室内へと駆け込んだ。


そこには異様な光景が広がっていた。


夕里子が教室の中央にいて、クラスメートたちは夕里子を取り囲むようにして見ている。


机や椅子は散乱し、夕里子は踊るようにカッターナイフを振り回している。


「誰か先生を呼んできて!」


誰かが叫び、誰かが教室から飛び出していく。


教室内では次々に悲鳴が沸き起こり、どれが誰の声なのかもわからなくなっている。


そんな中で夕里子は「助けて!」と叫びながら自分の体にカッターナイフを突き刺している。


引き抜いた途端に溢れ出す鮮血は床に血溜まりを作っていく。


夕里子はその上でダンスするように転げ回り、血は余計に広がっていく。


「止めて止めて止めて!」


夕里子の悲痛な叫びは続く。


誰かが夕里子に手を差し出すが、それだけで止まるものではない。


泣きじゃくりながら叫びながら、自分で自分の体にカッターナイフを突き立てる。


腹に胸にウエストに太ももに。


そのどれもが深い傷で、切った場所からは白い肉や骨まで見えてしまいそうだった。


夕里子は最後に無理た体制になり、カッターナイフを自分の背中に突き刺した。


その時ムリヤリ後ろににまわして右腕がゴキッと音を立てて、背中を切り裂いた後は力なく垂れ下がった。

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