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夕里子が緊急搬送された後、学校は急遽午後の授業を取りやめることになってしまった。


あれだけのことが起こったのだから、先生たちも授業どころではなくなったのだ。


保護者への説明や生徒からの事情聴取などやることはてんてこまい。


生徒たちから得られる情報なんてまともなものはひとつもないのに、先生という仕事も大変だ。


のんびりと考えながら帰宅準備をしていると太一が近づいてきた。


またなにか言われるかもしれない。


太一と会話をすると気分が悪くなるので声をかけられる前に教室から逃げ出した。


しかし、すぐに捕まってしまった。


太一に肩を掴まれた瞬間嫌悪感が体中をかけめぐる。


私はすぐにその手を払い除けて、にらみあげた。


「まだ私になにか用事でもあるの?」


他の生徒たちがいる前だけど、キツイ口調になってしまう。


こういうヤツには徹底的にわからせてやらないといけないのだ。


ストーカーは自分のことをストーカーだなんて思っていないんだから。


「傷」


太一は私の右手の甲を指差して一言言った。


「だからなに?」


「同じ場所にできてるみたいだから、気になって」


その言葉に私は目を見開いた。


他のクラスメートたちは私の傷になんて気がついていなかった。


太一はやっぱり私のことを無駄によく見ているのだろう。


チッと軽く舌打ちをして手を引っ込める。


「別になんでもないし」


私は冷たくそう言い、太一に背をむけたのだった。
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