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それから私は多美子と並んで走ることにした。


他愛のない会話に時折笑い声を混ぜて走る。


こんな楽しい授業なら毎回あってもいいのにな。


そう思っていたとき後方で誰かが倒れるような音がして、私達は同時に振り向いた。


見ると真純が青い顔をして汗を吹き出しながら倒れ込んでいる。


白い包帯には血が滲んでいて、走ったせいで傷口が開いたのだとわかった。


だけど誰も真純に声をかけなかった。


みんな見て見ぬ振りをして再び走り出す。


「自業自得だよね」


そんな声と笑い声が聞こえてきた。


私と多美子はその場に立ち止まり、真純の様子を見つめていた。


真純は青い顔して私達をにらみつけるが、決して助けてとは言わなかった。


自力で立ち上がってまた走り出そうとしている。


これが真純の強さだった。


だから3人組の中で特になにもしていないように見えても、真純の存在が驚異になっていたのだ。


白い包帯はみるみる赤色に染まっていき、水滴が滲み出して地面にポタポタと落ちていく。


想像以上の出血量みたいで、私と多美子は顔を見合わせた。


それでも一人で立ち上がろうとしている真純の体が一瞬にして跳ね飛ばされていた。


大きな衝撃音がしたかと思うと走ってきた車のバンパーが潰れ、真純の体は跳ね上がり、そして近くの田圃に落下した。


それはほんの一瞬の出来事だった。


後ろから走ってきた車がしゃがみこんでいる真純に気が付かず、そのまま跳ねたのだ。


呆然として立ち尽くしていると、音を聞いた生徒たちが駆け戻ってきた。


そして周囲はあっという間に悲鳴と喧騒に包まれたのだった。
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