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☆☆☆

ひと気のない廊下まで移動してきたとき、前を歩いていた太一は突然立ち止まって振り向いた。


私は危うく太一の背中にぶつかってしまいそうになって舌打ちをする。


「で、なに?」


いつもどおり低く、威嚇するような声で聞く。


振り向いた太一はさっきまでと同じように私を睨みつけていて、私はジッと睨み返す。


「なにかしてるんだろ」


太一が言ったのはたったそれだけだった。


他の人が聞けばなんのことか全然わからない一言。


それでも私は大きく目を見開いて、体中から汗が吹き出るのを感じた。


そういえば太一は以前のなにか知っているような口ぶりをしていた。


だけどそのときは自分の勘違いだと思ってやり過ごしたのだ。


私はゴクリと唾を飲み込んで太一を見上げた。


今回だってきっとそう、私の勘違いに違いない。


「なにかって、なに?」


「あの3人に対してだよ。どう考えてもおかしいだろ」


「おかしい? なにが?」


「いきなりチョークの粉を食べたり、自分で自分の体を切ったり、不幸なことだって立て続けに起きてる」


「みんなだって言ってるじゃん。自業自得だって」


私は鼻で笑って返事をした。
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