追体験アプリ
それは本当に小さな子どもにするような光景だった。


それでも真純はとても幸せそうに笑っている。


「家族は幸せになったけど、おかしなことが始まった」


真純はそう言うと右手を掲げてみせた。


さっきまで普通だったその手の甲がパックリと割れて血が溢れ出してくる。


私はすぐにこの場から逃げてしまいたかったけれど、やっぱり体は言うことをきかなかった。


「ありえないことが次々起こる。まさか、追体験アプリを他の誰かが持っているんじゃないかと思った。そして持っているとすれば……お前しかいない」


真純の声にゾクリと背中が震えた。


今までで聞いたことのないような冷たくて、威圧的な声色。


そこには怒りや悲しみを通り越した、殺意が感じられた。


「私はなにも」


震える声で言うが、真純は聞いていない。


「だから私は車に轢かれたあのとき、救急搬送される車の中でアプリを使った。これが最後、そう思って」
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