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「手を……離して」


私が言葉にしたことといえば、やっとそんな感じだった。


でも言ってみるもので、由希は素直に私の前髪を離してくれた。


と、同時に突き飛ばされてまた後方へと倒れ込んだ。


さっきよりも雨脚は強くなってきていて、倒れ込んだ場所には小さな水たまりができ始めていて、尻もちをつくと同時に泥が顔まで散ってしまった。


「ははっ。真っ黒じゃん」


由希と夕里子が声をあげて笑う。


後方に立っている真純は少しも表情を変えることなく上空を見上げ、透明傘を広げた。


それに右ならえするように由希と夕里子も傘を広げる。


私も傘は持っていたけれど、ここへ連れてこられてすぐに夕里子の折られてしまって使い物にならなかった。


雨脚は更に強くなり、大粒の雨が私の頬を濡らしていく。


「よかったね、これで少しは汚れが取れるんじゃない?」


夕里子の嫌味に私はうつむく。


なにかを言い返そうにも、もうなにも言うことはなかった。


ここで無駄に口を開けば帰る時間が遅くなるばかりだということも、私はすでに知っていた。
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