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「ねぇ、もう帰ろうよ。暑いし、雨だし」


真純がようやく手鏡をかばんにしまってそう言った。


私は雨粒が滴っている前髪の隙間から真純の様子を伺った。


いつも真純が帰ろうといえばすべてが終わる。


「そうだね。今日はもう十分かな」


途端に由希の声がワントーン高くなって、真純にこびを売るような目つきを浮かべる。


「明日もちゃんと学校に来いよ」


夕里子がそう言って私のスカートとわざと踏んづけて歩き出す。


あぁ、今日はお母さんになんて言おうか。


学校に傘を忘れてそのまま帰っていたけれど、大きなトラックが水たまりをハネて泥だらけになってしまった。


こんなかんじで違和感はないだろうか。


3人は私に背を向けて、すでに私なんていないものかのように立ち去っていく。
それでも私はすぐには動けない。


あの3人がまた戻ってきてしまうかもしれないから、完全に姿が見えなくなるまでは立ち上がることすらできない。


体はまるで金縛りにあっているように硬直してしまい、眼球だけで3人の姿を確認している。


少しでも物音を立てれば3人が戻ってくる。


そんな得体のしれない恐怖の塊が私の体を地面へと押し付けてきているようだ。


そしてようやくそれからも開放される。


そう思ったときだった。


「や、やめろよ!!」
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