追体験アプリ
☆☆☆

上履きを洗って乾かしてようやく自分の部屋に入ると、私はすぐにスマホのアプリを起動した。


そこで初めて、お気に入りの運動靴を捨てる羽目になっても心が動じなかったのはこのアプリがあるからだと気がついた。


これさえあればどんなことでもそっくりそのままやり返すことができる。


それは私の心の平穏を保つ要因となっていた。


だけど不思議なもので、アプリを起動して今日の出来事を思い出していると、怒りと憎しみだけは次から次へと湧き上がってくるのだ。


辛いとか悲しいのではない。


ひたすら夕里子にやり返したいという強い思いだ。


その思いに突き動かされるようにして指先に力を込めて夕里子の名前を記入する。


「絶対に許さないから」


私は画面を睨みつけて、毒をこぼしたのだった。
< 44 / 170 >

この作品をシェア

pagetop