追体験アプリ
とっさに止めようとする私の体を由希と真純が押さえつけた。


夕里子はカバンを開けるとそれを逆さまにして教科書やノートを地面に撒き散らした。


その中にピンク色の財布が混ざっている。


去年の誕生日にお母さんがくれたものだった。


「やめてよ!」


叫ぶと真純が手で口を塞いできた。


呼吸が止まり、鼓動が早くなっていく。


「早くしなよ夕里子」


「わかってる」


真純の言葉に急かされるように夕里子が財布の中を確認し始める。


「なに? たった500円?」


財布の小銭入れから硬貨を取り出した夕里子が力の抜けた声で言う。


「嘘でしょ? お前、どこに隠してんだよ」


由希が言い、スカートのポケットやブラウスの胸ポケットに手を突っ込んでくる。


だけど出てきたのは生徒手帳とハンカチだけだ。


学校に行くときにお金は必要ないから、500円玉一枚だけ入れるようにしていたことが功を奏したみたいだ。


「わかった。じゃあ明日までに三万円用意してきて」


最初真純の言葉の意味がうまく飲み込めなかった。


だからぼーっとしてしまって返事もできないでいると、真純の平手打ちが飛んできた。


パチンッと乾いた音が響いて、すぐに痛みがやってくる。


「返事は?」


人に反論させないすごみのある真純の声に私は「はい」としか返事ができなかったのだった。
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