追体験アプリ
☆☆☆

人間転落していくときはあっという間だ。


そこに誰かの手が差し伸べられて、助けられることなんてめったにない。


転げ落ちる坂に身を任せてなすがままにされる以外に方法はない。


私は憂鬱な気分で青空を見上げて大きくため息を吐き出した。


夕里子たち3人は言いたいことだけ言ってさっさと帰っていってしまい、私はようやくのろのろと散らばった文房具を片付け始めた。


教科書やノートにこびりついている土を丁寧に払い、ひとつひとつカバンに入れていく。


最後にピンクの財布を手にしたとき鼻の奥がつんと痛くなってもう1度空を見上げることになってしまった。


泣きたくないのに涙が溢れ出してくる。


こんなところ誰かに見られたら余計にめんどくさいことになるとわかっていても、どうしても止めることができない。


私は残りの教科書を土がついたままカバンに突っ込んで、慌てて駆け出したのだった。
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