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「泣いてるの?」


校舎裏から出たところで声をかけられて、驚きのあまり涙は引っ込み、代わりに悲鳴をこぼしていた。


「ごめん。驚かせるつもりじゃなかったんだ」


太一はそう言いながら私の顔を覗き込んできた。


私はとっさに顔をそらず。


「あんたなんなの? 本当に私のストーカーなんじゃない?」


鼻をすすりあげて毒を吐く。


太一は一瞬眉を寄せて悲しげな表情を浮かべただけで、いつも通りなにも気にしていないような、なにを考えているのかわからないような情けない顔に戻った。


「そんなんじゃないよ。僕はただ、心配で」


「心配でなに? いつもいつもいいタイミングで出てくるよね? 私がイジメられてる最中には出てこないのに」


そう言うと太一はさすがにたじろいだ。


数歩後ずさりをして頭をかく。


「それは……出ていくまでに勇気が必要で」


もごもごと口の中で言い訳を始める太一に苛立ちが募る。


「勇気がないから私がイジメられているのを黙ってじーっと見てるってわけ? いい趣味してるね」


私は吐き捨てるようにそう言うと、太一の横を通り過ぎてあるき出したのだった。
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