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「友達いないし、暗いし、一緒にいるとこっちまで気が滅入ってくるから」


早口で言う夕里子に黒坂くんが目を見開いて私を見つめた。


私は見返すことができなくて、机の木目を見つめた。


「だけど、優しいじゃないか」


その声に驚いて顔をあげてしまった。


黒坂くんが優しい笑顔をこちらへむけていて、思わず顔が熱くなる。


きっと今の私は真っ赤になっていることだろう。


黒坂くんの言葉に一瞬真純が目を見開いたが、私はそれを見ていなかった。


結局、黒坂くんは自分で言っていたとおり他のクラスメートたちからの誘いを断って、私に学校案内を頼んできた。


早くも有名人になってしまった黒坂くんと一緒に、昼休みの時間を使って学校内を歩くのは注目の的で、居心地の悪さを感じた。


だけど黒坂くんはそんな私の心境に気がついていないようで、「あれはなに? こっちにはなにがあるの?」と、ひっきりなしに質問をしてくる。


学科が違うため使ったことのない教室にまで興味を示して入ろうとするので、止めるのが大変だった。


黒坂くんは運動ができてかっこよくて、だけどそんなこと感じさせないくらいにとっつきやすい性格をしていた。


「案内終わったのか? じゃあ飯行こうぜ!」


ようやく教室へ戻ってきたと同時に、クラスメートの男子が黒坂くんに声をかけた。


いつの間に友達ができたんだろう。
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