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「あぁ。井村さん案内ありがとう」


「ううん」


どうってことないよと伝えようとする前に黒坂くんは数人の友人たちを肩を並べて教室を出ていってしまった。


食堂なんだ。


と思ってなんとなく寂しくなっている自分に気がついて、左右に首をふった。


黒坂くんは別に私と一緒にいたくて案内を頼んだわけじゃない。


先生が私の隣の席に座るように言ったから、ついでに案内を頼んだだけだ。


勘違いしちゃいけないと思いながら自分の席へ向かう。


カバンからお弁当箱を取り出したとき、後ろから肩を叩かれた。


「あ、多美子ごめんね。もうお弁当食べちゃったよね?」


私は多美子に一声かけていかなかったことを思い出した。


「それはいいの。でも、お弁当は食べないほうがいいよ」


多美子が険しい表情でそういうので私は手の中のお弁当箱へ視線を向けて、この前ゴミ箱に捨てられてしまったことを思い出した。


よくよく見てみると、お弁当袋の結び目が少し違っていることに気がついた。


視線を3人組へと移すと、3人はニヤついた笑みをこちらへ向けている。


嫌な予感が胸によぎる中私はお弁当箱の風呂敷を解いていく。
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