追体験アプリ
使う
私はトイレにかけこんで喉に詰まったものを吐き出していた。


「大丈夫? ごめんね、ごめん」


おいかけてきた多美子が後ろで泣きながら私の背中を擦ってくれている。


「大丈夫だよ」


喉に張り付いていたチョークの粉まで全部吐き出した後、ようやくそう答えることができた。


振り向くと多美子がスポーツドリンクを差し出してくれた。


まだ封を開けていないもので、さっきの間に買ってきてくれたのだとわかった。


「でも、でも私……」


多美子は胸の前で手を組んで、まるで祈っているようなポーズで私を見つめている。


「やっぱり先生に言ったほうがいいよね?」


そう言われて私は慌てて多美子を引き止めた。


以前の私なら多美子に頼り切りになって先生に伝えにいくのにもついてきてもらっていたと思う。


だけど私はもう以前の私じゃない。


先生にだって言う必要はなかった。


むしろ、そんなことをされたら復讐できなくなってしまう。


「本当に大丈夫だから。ジュースありがとうね、多美子は先に教室へ戻っていて」
< 93 / 170 >

この作品をシェア

pagetop