Letter - 大切な人 -
「よくこんな所見つけたな」
『何もないかもしれないぞ』と言いながらも智樹は美利に付き合うようだ。
時折フェンスから腕を伸ばす枝を避けながら数十メートル歩き続けると広い空間が二人を招き入れる。
「庭があった…」
美利は立ち止まって上を見上げる。校舎の裏側のようだ。
「これは穴場だな。誰も居ないし」
大きな木が一本中心に立っていて、その枝は大きく広く縦にも横にも広がっている。
テレビドラマやCMにも使えそうなほどに綺麗な整った形をしている。
その木の根元に寝転がると身体中が木陰に隠れとても過ごしやすい場所。
記憶をたどってみるがこれが階段の踊り場から見えた木なのだろうか。
恐らくそうだろう。
二人は根元に並んで座り買ってきた昼食を広げる。
「それにしても随分堂々と寝てたな」
焼きそばを頬張っている美利はもごもごと言っているが言葉になっていない。
その様子を見ながら智樹はフレンチドッグを咥えて笑いをこらえている。
「逆にみんながどうして眠たくならないのかが不思議だよ」
ペットボトルのお茶で焼きそばを流し込んだ美利は再び焼きそばに箸をつける。
「そこは耐えるんだよ」
フレンチドッグを食べ終わった智樹は焼きそばのふたを開けながら笑う。
その後も当たり障りない会話ばかりして、朝に智樹から誘われた話については何も触れなかった。