追憶ソルシエール
震えた声で訴える谷川くん。目がうるうると揺らいでいる。今回は本当に泣きそうだ。感情表現が豊かすぎて一日中一緒にいたら疲弊してしまいそう。
凌介くんも凌介くんだ。人間だなんて、もっとマシな回答は思い浮かばなかったのか。
「日向置いてくぞー」
沈黙が流れる空間に、遠くから呼ぶ声が届く。さっきの集団の中のうちのひとりだろう。
「じゃあ、俺行くわ! 凌介またな! 天使ちゃんもよろしく!」
「おー」
ぺこりと頭を下げた頃にはもう友達の輪の中へと入っていた。感情の赴くままに動いているのかもしれない。
「なんか、風のようなひとだったね」
「うるさくてごめん……」
「ううん、わたしは平気」
とは言いつつもかなり体力を消耗したような気分だ。谷川くんの印象があまりにも強すぎて、映画の内容も半分頭からすっぽ抜けてしまった。
それからショッピングモール内をぶらりと歩いて外に出れば、景色は藍色に包まれていた。
暖房が効いていたショッピングモール内とは違い、冷たい空気にブルっと思わず身震いしてしまえば、「寒いね」と白い息とともに凌介くんは笑う。
「ほんとに寒い。冬眠したいくらい。今年の冬乗り越えられないかもしれない」
「天使ちゃんなら乗り越えられるでしょ」
「その呼び方やめてよ、恥ずかしい」
ついに凌介くんにまでそうからかわれるなんて心外だ。ははっと笑う凌介くんはどこか満足そうで、不思議とわたしまで笑みが零れる。