追憶ソルシエール

もうそろそろマフラーとか手袋とか必須だな。あいにく今は持ち合わせておらず、外気に晒された手を冷える前に温めようとポケットに入れようとすれば、その手は掬われた。



「凌介くん、手繋ぐの好きだよね」

「寒いからね」

「そうだね、寒いよね」


ふふ、と思わず口角が上がる。


「そうだ、わたし言おうと思ってたことあるの」

「なに?」

「凌介くんさ、ゾンビの夢見て目覚め良くなかったけど放課後のこと考えたらどうでもよくなったって言ってたでしょ?」

「うん」

「わたしもね、今日お弁当家に忘れて購買に買いに行くはめになったんだけど、普段購買なんて行かないからあんなに混んでるなんて知らなかったの。結局サンドイッチひとつしか食べれなかったんだけど、あと3時間授業受けたら凌介くんとデートだって考えたらどうでもよくなった」


「なにそれかわいい」



へへっと昼間のエピソードを話す。ゾンビに気を取られていて、せっかく伝えてくれた嬉しい言葉を忘れそうになっていた。



「だからポップコーンもチュロスもいっぱい食べてたんだ」

「そう。でも今はもうお腹いっぱいだから夜ご飯食べれないかも」

「ちゃんと食べるんだよ」

「凌介くんパパみたいなこと言う」

「えー、それはあんまり嬉しくないかも」




駅が見えてくる。いつもより遅い時間だからか人気はそこまで多くない。

改札前で立ち止まる。手を繋ぐときは嬉しいのに、離すと途端に寂しくなるのはいつまで経ってもなれないような気がする。
< 102 / 134 >

この作品をシェア

pagetop