追憶ソルシエール

「岩田がまだ観てないって知らずに映画の結末とか感想言ってすごい怒られた記憶ある」


「あー、わたしも覚えてる。予告見ておもしろそうだったから絶対観るって決めてたのに見る前にネタバレされたからほんとショックだった」




あれはホラー映画だった。予告編を見てどんな結末になるのか、どうやって逃げ切るのかワクワクしていた。映画館で思いっきりスリルを味わおうとしていたのに、その夢は西野くんのせいで台無しになったのだ。


今考えてもあれはひどい。
楽しみにしていた人の夢を奪うだなんて。




「てか西野くんなんでここまで来てるの。あっちから行ったほうが近いじゃん」


さっきの角を曲がってちょっと歩けば西野くんの家なのに、なぜここまで来る必要があるのか。


「送る」

「え? なんで西野くんに送ってもらわなきゃなの」

「彼氏には送ってもらったんだろ」

「そうだけど、なに」



凌介くんに送ってもらったから西野くんにも送ってもらわなきゃいけないなんてルールはない。送る、なんて言うもわたしの家もそう遠くない。



寒いし、家に帰って暖まるべきだ。西野くんなんて特に、寒がりだから。



「やっぱここま……、わっ」



勢いよく腕を引っ張られ、言いかけていた言葉を瞬時に飲み込んだ。

直後、ブーンという大きな音とともに1台のバイクが一瞬にして横を通り過ぎる。バイクが連れてきた風の音が耳に残る。






「はーっ、びっくりした」

「…………わたしも」


一瞬息を止めていた。西野くんと同じように深く息を吐いて脱力する。
< 106 / 134 >

この作品をシェア

pagetop