追憶ソルシエール

こんな会話を交わし早30分。あれからずっと古典だけを勉強している。「疲れたー」と深く息をつく那乃を見て、科目変えれば?と提案するもあえなく却下された。たしかに、今回古典の赤点を逃れられれば補習はないけど、冬休み明けのテストのときほかの教科が危うくなるんじゃ?



こんな心配を他所に、残りのラテを一気に飲み干した那乃は、「ちょっとメニュー見てくる!」と財布を持ってレジのほうへと向かった。



ひと通り物理の範囲が片付いたわたしも、溶けかけているフラペチーノを摂取し、凝り固まった肩周りを動かそうと伸びをする。ふーっ、と深呼吸をして身体中に酸素を取り込んだ。





「あ、世莉ちゃんだ」



ふと自分の名前が聞こえ、馴染みのいい声に振り向けばそこには凌介くんと香坂くんの姿があった。



「ふたりもテスト勉強しに来たの?」

「そう、世莉ちゃんは佐藤さんとテスト勉強?」


わたしの前の席に散らばっている教科書や参考書を一瞥し、そう訊ねる凌介くんに、うん、と頷く。



「今飲み物買いに行ってていないんだけどね」



2杯目の、とピースサインをするわたしに、「そっか」と笑った凌介くんの後ろから、片手に今月の新作をもった那乃が現れる。




「世莉にナンパしてるやつ誰かと思ったら佐田と香坂だったわ」


「ナンパって……」


苦笑するわたしを他所に、那乃は「一緒に勉強しよ!」なんて先程ナンパ呼ばわりしたふたりを誘っている。

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