追憶ソルシエール
「ここ分かる?」
「あー、それは___」
「これってどういう意味?」
「んーとね、これをこうして__」
せっかく文系のふたりが来たのだからと、古典の勉強をすることにした。わからないところをお互いに教え合う。自分では理解していても、相手にできるだけ分かりやすく言葉で説明するのはとてつもなく難しい。
「ねえ香坂、これは?」
「それはさっき説明したこの2番の」
「さっきっていつ! 聞きすぎてわかんない」
「あー、ほらこれ」
…………香坂くんは自分の勉強捗っているのだろうか。前に座るふたりを見ると、さっきから那乃がずっと聞いている気がする。
「これってなに」、「意味わかんないんだけど」、「なんでこれがこうなるわけ?」
疑問だらけの那乃に、ひとつひとつ丁寧に教えていた香坂くんも来たときに比べ若干やつれているように感じるのは気のせいではない気がする。
「あ! 凌介じゃん!」
辺りに響くんじゃないかと思うほど通る声で名前を呼ばれたのは、隣に座る凌介くんだった。何事かとつられてわたしも顔を上げれば、そこには見覚えのある顔があった。
やっぱり一度会ったら忘れなかった。
あのインパクトの強い彼がいる。
「お、日向だ」
「この前ぶりだー! てか天使ちゃんもいる!!」
目が合って、こんにちはと笑みを浮かべれば、こんにちは!と私の何倍も大きな声で挨拶を返してくれた。