追憶ソルシエール
「わー! こんな短期間に2回も会えるなんて!」
ひとりで感動しているように見える姿に、やっぱりこれが彼の通常運転なんだとわかった。この前がただ単にハイテンションだったとか、元気が有り余っていたわけでもなく、これが普通の姿らしい。
「天使ちゃんってなに?」
これまでの一連の流れを傍観していた那乃が、ねえねえ、と声を細めて言う。
「わたしもよくわかんない」
疑問を顔に浮べる那乃に、困った表情で返すことしかできない。わたしもよくわからない。谷川くんの高校ではそう呼ばれているっていうことしか知らない。果たしてそれが事実なのかもよく知らない。
「お友達もこんにちは! いつも凌介がお世話になってます!」
元気よく挨拶をした矢先、深いお辞儀をしたと思えば背負っていたリュックからドバドバと中身が溢れる。
「……漫画みたい」
ぽつりと零した那乃。
本当にその通りだ。わたしも漫画やドラマでしかこんなシーンしらない。
「ああああああやばいやばい」
慌てふためきながら床に散らばった教科書やらをかき集めている。椅子に座ったままそれを手伝う香坂くんに「ありがとう! 命の恩人だよ!」だなんて強引に両手を包み込む。
「ああ、いえいえ」
若干引いている気がする。たしかに初対面で両手握られたら怖いよな、と思いながらその様子をただ眺めていれば
「あー、日向なにやってんのー」
近くで足音が止まり、声が聞こえたほうを向く。