追憶ソルシエール
もうこれは流れに身を任せることしか道は残っていなさそう。
目の前に座る那乃と目が合う。自分のスマホを指差し、口パクで " みてみて " と訴えてくる。
机の上に置いてあったスマホを手に取れば、画面には一件の通知が来ており、それは紛れもない那乃からだ。
" あいついるけどいいの? 大丈夫? "
" んー、大丈夫だけど帰りたい "
" え、じゃあ帰ろ! あたし変な人たちと一緒に勉強したくないし凌介に帰るっていいなよ。男たちで勉強させといてあたしの家行こ "
「世利ちゃんは大丈夫?」
「ん?」
隣からの声にスマホから視線を移すと困った様子の凌介くんがいた。
「日向たち。相変わらずうるさいし、知らない人もいるけど」
わたしと西野くん、わたしと由衣くんが顔見知りってことを凌介くんは知らない。だからこそ心配してくれている。
「……わたしは大丈夫だよ」
大丈夫?って言われると大丈夫って返すしかない。
少しの罪悪感と喉のつっかかりを放置しないよう飲み込んだ。
突き刺さる視線をひしひしと感じる。
目を合わせないように下を向けば、消していなかったスマホはまだ那乃とのトーク画面が表示されていて、そこには怒り狂ったくまのスタンプが送られてきていた。
ひいいいいい。怖い。スマホの電源を消し、通知が来ても注意を奪われないよう画面を下に向けて伏せた。
もう顔すら上げれない。それなら那乃が言ってよ、と思うも口に出すことも文字にすることもできず、勉強会が再開されたのだった。
雑談を交えながら1時間弱。そろそろみんなの集中力も切れていてペンを置いて「はあーっ」と大きくため息をついたのは那乃だった。