追憶ソルシエール
「あー、もう限界。古典勉強しすぎて頭おかしくなりそう」
「俺も俺も!」
声だけ聞くと1ミリたりとも疲れてなさそうな谷川くんがいきなり立ち上がり、那乃に手を差し出した。
握手を求める谷川くんを引き攣った顔で見る那乃。渋々といったように片手を差し出せば、谷川くんはそれを両手で握った。
「今日から俺らは仲間だ!」
「あ、ははははは」
どうか、気づいてほしい。この場でこの空気についていけるのは、この空気を作っている彼しかいないということ。
そこでわたしの頭にいつかの言葉が蘇る。
『見た瞬間分かると思うよ。こいつだ、って』
なぜわたしは今の今まで気づかなかったのか。
声の大きさ、トーン。オーバーリアクション。
由依くんから、"ちょーうるさすぎて友達やめたくなる人" と思われている人物。
絶対に、こいつだ。
「やっぱ頭使うと糖分必要だわー! 2杯目頼んでこよ」
「俺も行こー」
「おまえ3杯目じゃね」
「何杯でもいいだろ」
ゾロゾロゾロゾロと椅子を引く音。わたしもフラペチーノなくなっちゃったけどもういいや。今はご飯系が食べたい。
「あたしトイレ行ってくるけど世莉も行く?」
「ううん、大丈夫。いってらっしゃーい」
スマホとハンカチを持った那乃に軽く手を振り、ふう、と自然に溢れたため息。