追憶ソルシエール

トドメを刺された谷川くんは口をつむる。



……たしかに。谷川くんが余計な一言を言わなければこうはならなかったはずだ。ある意味逆ギレ。感受性がものすごく豊かなのだろう。






「そういえば凌介と世莉ちゃんいつから付き合ってんの?」


やっと席に着き特製スペシャルなんとかを大人しく飲んでいると思えば、両手をパチンと叩き、疑問を投げかける。



「今度会ったら聞こうと思ってたんだよね〜」



隣にいる凌介くんと目が合う。みんなの前でこんな話をするのは苦手だ。多分、凌介くんもそこまで自分のことを話すのは得意じゃないと思う。




「んー、もうちょっとで1年くらい?」

「わ、そんな前から!? 1年記念日何すんの!」

「まだ決まってないけど」

「そっかー。初デートはどこ行った!?」



どうしてこんなときに限って那乃はまだ戻ってこないのだろうか。そういえば西野くんもまだいない。根掘り葉掘りとインタビューされる凌介くんの横で、さりげなくトイレのある方向を見るけどそれらしき気配はなし。



那乃さえいればまだなんとかこの空気に打ち勝てただろうに、わたしには谷川くんのペースにのまれない術を身につけていない。






「ねえねえ、世莉ちゃんは?」

「え? なに?」

「凌介のどこが好きなの?」

「えっ?」



次の標的はわたしみたいだ。目をきらきらと輝かせて答えを待っている。まるで餌を与えられるのを待っている犬のようだ。
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