追憶ソルシエール
突然話を振られた香坂くんはなんて言うべきか迷っているようだ。多分、香坂くんもこの状況は落ち着かないのだろう。
さっきから言葉を発しているのをほとんど見かけない。香坂くんも谷川くんのペースにのみこまれている。
きらきらと期待が混じった眼差しを浴びながら、「んー、」と悩む香坂くんに、「遠慮なく正直にいいなー」と横から由唯くんに言われると。
「俺もみんなと同じかな」
「唯一信頼していたのに……」
しゅん、という効果音が良く似合う。凌介くんたちに信用されてなくても、命の恩人に信用されていなかったのはかなりダメージを受けたみたいだ。
「でも大丈夫! まだ天使ちゃんたちに聞いてないから!」
「過半数は日向クリスマス潰れると思ってるけどね」
「いーの俺はひとりでも味方がい───」
「あたしも補習になると思うー」
「……わたしも」
谷川くんがどこまで勉強できないかなんて知らない。でも、ここは流れに乗るしかないのだ。実際に今日、手より口のほうが活発だった気がするし。
「うわあ、みんなひどくね!? 俺だって! 俺だってやればできるんだからな!」
ブレザーを脱ぎ、シャツの袖を捲る姿は、かなり気合いが入っているようだ。
「いとをかしとかなに? 俺たち現代を生きてるわけだから古典とかいらなくね? 平安時代に戻るとか、地球が一周回ったら、もしかしたら、もしかしたらあるかもしれないけど、」
あるんかい。ブツブツと大きな独り言に、思わず心の中でつっこみをいられずにはいられなかった。思わず谷川くんのほうを見れば、同じように反応していた凌介くんと目が合い、ふたりでくすっと笑う。