追憶ソルシエール
「そういえば昨日の電話なんだった?」
「特に用はないよー。暇だったからかけただけ」
「いつものことだね」
那乃はなんてことない理由でよく電話をかけてくる。
ある日は、お風呂上がりに食べようと大切にとっておいたプリンを弟に食べられたという怒りの電話。またある日は、カフェの店員さんがイケメンだったという電話。
中学生のときに出会い、仲良くなってもう数年目。去年同様、今年も運良く同じクラスになれて、移動教室やお昼ご飯を共にしているけれど、那乃のおかげで毎日話題は尽きない。
「あれ、その傘どうしたの?」
ふと、那乃の視線が落とされる。その視線の先を辿れば、それはわたしの手元に。もっと言えば、わたしが手に持っている傘にその視線は注がれていた。
「えーっと……」
なんて答えようか。なんて答えるのが正解なのだろうか。迷っているうちに、「もしかして今日も雨降る?」とさらなる質問を投げかけられた。
「今日はたぶん、降らないんじゃないかな」
ちらりと空を見上げれば、雲ひとつない青が広がっている。
天気予報でもお姉さんが言っていた。昨日とは比べ物にもならないくらいの快晴だって。
その証拠に、今も太陽が水たまりをきらきらと照らしている。水面が揺れていて、日光に反射していて少し眩しい。この様子だと、午後にはアスファルトも乾いてそうだ。