追憶ソルシエール
わたしと那乃の間に共通する“西野”なんてひとりしかおらず、こくり、と縦に頷いた。
直後、「はあぁぁぁ?!」という叫び声が耳元で鳴り響く。
その正体は紛れもなく那乃で、あまりの大きさにぎゅ、と一瞬目をつぶった。朝っぱらからそのボリュームはけっこう刺激が強い。かき氷を食べたときみたいに頭がキーンと痛む。
昇降口の目の前ということもあって、登校してきた生徒からも何事かと視線を浴びる。けれどそんなことお構いなしの那乃はわたしの両肩をガシ、と掴んで。
「ねえどういうこと? え、傘借りたって、ええ!?」
「ちょっと那乃、落ち着いて、」
「落ち着いてる!」
捲し立てるように早口で詰め寄ってくる姿が少し怖くて思わず仰け反った。
ぜったい落ち着いてない。誰がどう見ても落ち着いてないと言えるだろう。
昨日のわたしと同じくらい動揺してる。こんなに驚かれると、逆にわたしのほうが冷静になって考えてしまう。
とりあえず、人が多く行き交う昇降口前から退いて、通行の妨げにならないように昇降口のすぐ隣、花壇のある場所まで那乃を連れていく。
「西野と会ったの? 話したの? ねえなにがあったの昨日!」
「わ、わかった。ちゃんと話すから」