追憶ソルシエール
邂逅フォグブルー
「おねえちゃんのおすすめは?」
「うーん、わたしはクロワッサンが一番好きかなあ」
「わかった! ママ、つぎはクロワッサンもかう!」
幼稚園生くらいの小さな女の子。カウンター越しに、くりっとした大きな目をきらきらと輝かせて訊ねてきたと思えば、わたしの返事を聞くや否や、元気よくそう宣言をした。
隣に立つお母さんは困ったように「はいはい」と微笑んで、その返事に女の子も満足気に口角を上げた。
「いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそいつもありがとうございます」
その言葉とともに、ビニールに個包されたパンが入った紙袋を手渡した。
いつも、だなんて言えるほど頻繁にレジをしているわけではないけれど、このお店がオープンした当初からよくお店を利用されている常連の方だと、バイトを始めてまだ日が浅い頃にオーナーが教えてくれた。
「おねえちゃん、ばいばい!」
「うん、またね」
扉が開くと同時、リリン、と鈴が高い音を鳴らした。
女の子が振り返ると、色素の薄い髪の毛は肩の上ではらりと舞う。手をひらひらと振る女の子に同じように振り返す。そして、「ありがとうございました」と会釈をし、微笑ましくその背中を見送った。
水曜日の放課後。
甘くて香ばしい香りが漂うここは、バイト先のパン屋さん── encore une fois