追憶ソルシエール
両手を合わせて懇願するようにじっと見つめる。那乃はちらりと視線を傘に落としたあと、もう一度わたしを見た。
「それって今日の放課後?」
「うん」
「……ごめん、あたし部活だ」
「そうだよね……」
那乃と一緒なら、ひとりで行くより遥かに気が楽で心強い。押し潰されそうな気持ちも少しはマシになる。そう思っていたけど、バレー部に所属している那乃は平日ほとんど部活があって。もちろん、それを知った上で頼んでいたのだけど。
「ねぇ、じゃあ佐田について来てもらったら?」
「え、凌介くんに?」
「そうそう。こういうときこそ彼氏頼るべきでしょ」
昇降口の階段を上りながら新たな提案してくれる那乃に、うーんと唸る。
「凌介くんも部活忙しそうだからなあ」
「あーそっか。サッカー部も大変そうだもんね」
冬の大会に向けてどの部も一生懸命活動に励んでいる。那乃と凌介くんを私情に巻き込むわけにはいかない。どうにか、自分ひとりで解決しなければ。
2、3本しか置いていない傘立てに、透明な傘を追加する。
「もうさ、そんなに嫌なら返さなくていいんじゃない?」
「えっ?」
考えもしなかったその台詞に、ぽかん、と那乃を見つめる。