追憶ソルシエール
「世莉ちゃん、もうあがっていいわよ」
裏のキッチンから顔を覗かせる汐里さんの声に反応して時計を見れば、針はもう19時前を指していた。
「はーい、おつかれさまです」
汐里さんに返事をして、お店の奥にある更衣室へと向かう。今日は朝からいつものように授業を受けて、そのままバイトへ向かって、流れるままに過ごしていたような気がする。そのせいか時間が過ぎるのが早く感じた。
一日を終わらせるにはまだ早いけれど、今日も頑張った自分に労いの言葉を心の中で唱えて、エプロンから制服へと着替え直す。
そういえば、明日の一限には古文の単語テストがあるんだった。家に帰ってから復習しておかなければ。たしか範囲が広かったはず。
キャスケットとエプロンをバッグの中に仕舞い、後ろでひとつに結んでいた髪を解く。ポケットから鏡を取り出して指先で前髪を整えた。
二週間ほど前に自分で切った前髪は、今は眉と目のちょうど真ん中辺りまで伸びた。
目の下あたりまで伸びていたからそろそろ切ろうと真っ直ぐになるように切っていたつもりが、微調整していくうちに気づけばオン眉になっていた。
だから翌日、友人の那乃に会った瞬間思いっきり笑われたのを覚えている。
無事に伸びてくれて安心だ。もうセルフカットはしたくない。