追憶ソルシエール

疑問は解決しないまま、凌介くんのクラスに着いた。那乃は自分のクラスかのように教室に入って友達の元へと向かう。



お昼休みということもあって騒々しい教室内。入口の扉からぐるりと見渡して凌介くんを探せば、男子集団のなかにその姿を発見した。



運良く視線が交わって手招きすれば、持っていたパンを置いてこちらへと向かって来てくれる。




「どうした?」

「あのね、次の授業英語だったから電子辞書が必要で」

「あー、わかった。ちょっと待ってて」


教室内に戻っていく凌介くんを待つ間、壁に背を預けて窓の外を眺めることにした。



外は風がよく吹いているみたいだった。茶色に染まったいくつかの葉が揺られている。




「おまたせ」


ガラガラとドアが開き、それと同時に凌介くんが顔を出した。



はい、と言う言葉とともに差し出された電子辞書。放課後返してもらうはずだったそれは、予定よりも早くわたしのもとに戻ってきた。



「ごめんね、返すのいつでもいいって言ったのに」

「いや、俺のほうこそありがと。そういえば世莉ちゃんひとりで来たの?」

「ううん、那乃と」

「佐藤さんと?」
< 58 / 134 >

この作品をシェア

pagetop