追憶ソルシエール

情報量もそこまで多くない上に、重い雲が覆った空は少しずつではあるけれど暗さを増していく。



「はあ、」



不安が声となり、雨と混ざって地面に落ちる。重くなった足取りを止めて、託された傘に視線を落とした。



このままじゃ、持ち主を見つけられないまま今日が終わってしまう可能性が高い。そしたらこの傘は、持ち主が忘れたとお店に伝えに来るまでわたしの家で留守番だ。



もしかすれば、持ち主は忘れたことに気がついてお店に戻っているかもしれない。でもそれだったら汐里さんから連絡がくるはずだからその可能性は低そうだ。



どこかのお店で雨宿りしているかもしれないし、もう電車に乗ってしまったかもしれない。そもそも、まだこの辺りにいるかさえも不明だ。


今日はもう諦めて、帰ったら汐里さんに連絡しよう。探したけれど見つけられなかったから次のバイトのときまで家で預かっておくと。




任務は果たせなかったけれど、とりあえず自分の中では一件落着して肩の荷が下りた気分だ。



ここから家までそう遠くはない。歩いて数十分ほどだ。雨脚も徐々に強さを増してきていて、自然と足取りは早くなる。傘をさせば済む話だけど、折り畳み傘を取り出すのは少し億劫だ。多少濡れてもできればこのまま家に辿り着きたい。
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