追憶ソルシエール
平穏オパールグリーン
駅のホーム。
いつもと同じ時間。いつもと同じ5号車の前。
「おはよ」
あと数分でやってくる電車を待っていれば、雑音に紛れて耳に届いた、落ち着いた声。
「おは、よう……」
欠伸を堪え潤んでぼやけていた視界が、一瞬にしてクリアになる。
振り向けば、そこには数日ぶりに見る西野くんの姿があった。
「なんでそんな驚いてんの」
「だって……今まで電車通学だった?」
高校に通い始めて2年目。つまり、その期間中ずっと電車通学をしていたわけだけど、今まで一度も西野くんを駅で見たことはなかったのに。
自然と隣に並んだ西野くんに、どうして?と目で訴えるとこちらを一瞥して。
「もう11月じゃん」
訳のわからない、答えになっていない返しに、頭の中が混乱する。それでも「うん?」と次の言葉を待つ。
「寒いじゃん」
「……うん」
「自転車だと風冷たいから。だから1週間前くらいから電車にした」
「なるほど……」
「去年は自転車で通ってたけどさすがにねー、もう無理」
ポケットに手を突っ込みながら、去年を思い出しているのか寒そうに肩を竦める。