追憶ソルシエール
「……思ってない」
「…………」
「そんなこと思ってないよ」
前に貼られている広告の看板を視界の端に映しながら、もう一度言葉を紡いだ。
西野くんと再会したことは、ここ最近で一番驚いた。最初はまともに顔も見れなかったし、話しかけられてもすんなりと言葉が出てこなくて困った。傘を返すことが憂鬱だって思ってたときもある。無駄に緊張していて、笑う余裕なんてほんの少し前まではなかったかもしれない。
だけど、会わなきゃよかったなんて思ったことは、不思議と一度もなくて。
「……なんか、意外」
ぽつりと呟かれた言葉に、顔を上げれば視線が交わる。
「岩田のことだから、二度と会いたくなかったとか言われるかと思ってた」
「わたしのイメージ、そんな感じなの……?」
もし、そんな類いのことを思っていたとしても、小心者だから真正面から堂々と言うことはできない気がする。ぜったい心に秘めておく。
現に、以前一緒に帰ろうと提案されたとき、本当は避けたかったけど、何も言えず一緒に帰る羽目になったこともあるというのに。
「見た目とは裏腹にけっこー言うじゃん?」
「悪口……?」
「事実じゃん」
「そんなことないもん」
思わず語尾を強めてしまえば、「はいはい」と呆れたように交わされた。西野くんがずっとわたしのことそんな風に思ってたなんて心外だ。