追憶ソルシエール
「見た瞬間分かると思うよ。こいつだ、って」
見た瞬間に、"ちょーうるさすぎて友達やめたくなる人" だとわかるなんてどれほどの人だろう。
友達をやめたくなるほどうるさい人に出会ったことがないからわからない。那乃もうるさいほうだけどそこまでではない。そう言いつつも仲良くしてるってことは、やっぱり由唯くんはやさしい人なんだと思う。
「このあとって用事ある?」
「ない、ですけど」
スマホを一瞥した後、発せられた言葉。続く言葉を予想できず、頭には疑問を浮かべたままそう答えれば。
「せっかくだしどっか行こーよ」
「え?」
言うやいなや、口角を上げた由唯くんは歩き出す。その光景を眺めていれば、いつの間にか由唯くんの背中は遠ざかっていて、慌てて隣に駆け寄った。
てっきり、すぐに帰ると思ってた。汐里さんに勧められた手前、この場で解散するのは難しいにしても、お店から少し離れたところで分かれるつもりだった。由唯くんもそう考えてると勝手に思ってた。
それなのに、今わたしは出会ってまだ二回目の由唯くんと並んで歩いている。
この前は動揺していてきちんと顔を見る余裕がなかったけど、由唯くんはとても綺麗な顔をしていた。色素が薄めな目も、色白な肌も、ハーフと言われれば納得してしまうような雰囲気だ。
「あの、どこに行くんですか?」
歩き始めて数分。目的地を伝えられていないわたしは、ただ由唯くんのあとを着いていくことしかできない。
「んー、どこ行こっか」
横顔に問いかければ、由唯くんは端正な顔立ちに曖昧な笑みを浮かべた。