追憶ソルシエール
軽い風が吹いて、スカートの上に鮮やかな黄色の葉が1枚落ちてきた。ベンチの後ろには大きなイチョウの木が聳えている。周りにもいくつかの葉が落ちていて、もう少し時間が経てば黄色の絨毯ができそう。
「これ食べない?」
イチョウの葉を手に取ったとき、その言葉と同時に由唯くんの手から提げられたパン屋の袋は軽く左右に揺れる。汐里さんに捕まりながらも、わたしが裏にいた間に無事買えていたみたいだ。
「わたしは大丈夫だからひとりで食べなよ」
「バイトしてんならもう食べ飽きてるかもしんないけど、おれひとりだけ食べるのもあれだからさー。それとも今お腹すいてない?」
「……お腹はすいてる、けど」
学校でお弁当を食べたきり、水分しか口にしていなかったから空腹ではある。だからといって、由唯くんが買ったパンをもらうのはそれほど親しいわけでもないから少し抵抗があって。「やっぱり悪いよ」
そう言い終える前に「遠慮とかしなくていーの」発せられた言葉によって自然と口が閉じる。
「一緒に食べよ」
口角を上げて満足気に笑みを浮かべる目の前の彼。もう一度断ることはできず、控えめに頷いた。
「どれがいい?」由唯くんが袋を広げると、その中にはメロンパンにクロワッサン。ベーグルや明太フランスなど、多様な種類のパンが入っている。
「わ、いっぱいあるね」
「さっきのお店の人、世莉ちゃんの友達だから特別ーってサービスしてくれた」
「なるほど……」
頭にその光景を思い浮かべてみれば、容易に想像できた。