追憶ソルシエール

「由唯くんはなに食べるの?」

「んーおれはどれでもいいよー。世莉ちゃん先選びな」


そう言われると余計に悩む。どれにしようかと悩んだ末、結局食べやすいミニサイズのクロワッサンをいただくことにした。


「いただきます」

「どーぞー」


ウエットティッシュで手を拭いて、ビニールに包まれたクロワッサンを取り出す。一口サイズのそれを口に放り込めば、ほんのりとバターの風味が広がる。



パンは焼きたてが一番だけど、冷めてもサクサクの食感はいつ食べても新鮮で何度食べてもまったく飽きない。

隣を見れば、由唯くんはメロンパンを手に持っていた。まだ会って二回目、会話もそれほど交したことはないけれど、メロンパンを選んだことが少し意外だと感じた。本当に勝手な想像だけど、カレーパンとかコロッケパンとか、そういう類いのものを好むと思っていた。






「なんか悩んでるんだって?」


しばらく目の前の景色をぼーっと眺めてクロワッサンを味わっていれば、不意に届いた声。「え?」と微かに漏れた言葉と同時に隣を見た。


「いや、さっきお店の人が言ってたから」

「……そうだった?」

「悩みっていうか考えごとがどうとか」

「んー……」



思い返しても正直覚えていないけれど、ただ単にわたしが聞いていなかっただけかもしれない。あのときは汐里さんのペースに呑まれていた。由唯くんを見て早々に彼氏だと判断した汐里さんはその後も饒舌だった。

けれど、悩みと聞いてある言葉が頭に思い浮かぶ。
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