追憶ソルシエール
「ほんとに全然、大したことじゃないんだよ」
へへ、と笑って視線を逸らせば、「聞くよ」と真っ直ぐに届いた声。それによってもう一度由唯くんと目を合わせた。
「悩んでるときは人に吐き出すのが一番でしょー。仲良くない人に話すのは抵抗あるかもだけど、だからこそ話せるってのもあるじゃん?」
「…………」
俯いたら、食べかけのクロワッサンが視界に映りこんだ。
たしかに、由唯くんの言っていることは一理あるかもしれない。身近な人よりも、あまり深い関わりがない人のほうが相談しやすい場合もある。
「由唯くんは、好きな人とかいたりする?」
唐突だったかもしれない。「ん?」と目を瞬かせる彼は予想外の質問に驚愕している。
「いるとしたら、やっぱりその子には特別優しくしたりするの?」
悩み相談という名の突然の恋愛話。メロンパンを1口齧り、視線を宙に向けた由唯くんは「んー、どーかな」と呟いた。
『好意がなきゃ優しくしなくない?』
四六時中、考えていたわけじゃない。"悩み"といえるほど大袈裟なものでもない。他の人にとってはそんなこと?と思うようなもの。今日の夜ご飯何にしようかな〜と同じレベル。でも、ふとしたときに頭の片隅で思い出してしまう。いつかの那乃の言葉。
由唯くんの横顔を眺めて返答を待っていれば、ふいにこちらを向いた。
「こーやって改まって訊かれると難しいんだけど、やっぱり誰でも好きな子からは好かれたいじゃん? だから無意識に優しくしてんじゃないかな」
「なるほど……」
「そうそう。自分でも気づかないうちに」