追憶ソルシエール
たしかにそうかもしれない。好きな子に自ら嫌われるような態度をとる人なんて滅多にいないと思う。少なくとも、わたしが知る限りではいないはず。
「実は、友達に言われたの。好意がなきゃ優しくしないはずだって」
「好意?」
「うん。だから、由唯くんはどうなんだろうと思って」
「あー、そういうこと」
納得したように頷く由唯くんに「でも、」と新たに話を切りだす。
「わたしは、必ずしもそうとは限らないんじゃないかって思う」
「それは、好意と優しさが結びつくわけじゃないってこと?」
確認するように問いかけられたそれに軽く頷く。
「別に好きな人にじゃなくても困ってたら助けることだってある。この前西野くんに傘返しに行ったとき、由唯くんに声をかけられてすごく助かって、優しい人だなって思ったの。由唯くんが私に声をかけてくれた理由が気まぐれなのかなんなのか私にはわからないけど、そこに好意があったわけではないでしょ?」
困ってるときに助けてくれたらその人のこと優しいって思うけど、相手は好きだから助けたんじゃなくて善意で助けたかもしれない。はたまた、相手からしたら好意があるから声をかけたのかもしれないけど、本人からしたらあー、この人優しい人だな、程度の気持ちで片付けられるかもしれない。優しいの基準も、きっと人によって異なる。
「たしかに、好意とそれ以外の気持ちって意外と傍から見たら区別つかないかもね」
「難しいよね」
「そうだねー」
はは、なんて乾いた笑いが賑やかな公園内にかき消される。