追憶ソルシエール
「一年の頃から、ずっと好きでした」
人気のない、放課後の中庭。
朝、登校したら靴箱の中に入っていた一枚のメモ。
" 放課後、中庭に来てください "
差出人の名前もないそのメモにイタズラではと不信感を抱きつつも、一日の授業を終え、そこに書かれていたとおりに中庭に向かうと、そこにはひとりの男の子がいた。
そして、さっきの言葉を告げられたのだ。
「よかったら、僕と付き合ってください」
2mほどの距離を空けた先に立つ、何度か見かけたことはあるような気もするけれど、一度も話したことのない男の子。俯いていて、なかなか視線が交わることがない。
「ありがとうございます。……でも、ごめんなさい」
気持ちは嬉しいけれど、わたしはそれに応えられない。少し心苦しくなりながら、頭を下げた。
「そうですよね……。話したこともないのに、突然迷惑でしたよね。貴重な時間をありがとうございました」
最後まで名乗ることのなかった男の子は、深々とお辞儀をして去っていく。その後ろ姿を見ながら、男の子が建物の角を曲がり姿が見えなくなったところで、わたしも帰ろうと校舎のほうへ足を向けて。
「あ、」
ばちりと目が合う。
歩き出そうとした足が不自然に止まった。
「ごめん、盗み聞きするつもりじゃなかったんだけど。自販機行こうとしたらタイミング逃して」